2024年6月
橿原の杜に星出る梅雨晴間
大槻一郎
豊作の甘夏とりて配り終ふ
岩見 浩
夏みかん瀬戸内海に帆かけ船
中野陽典
夏浅し蜂蜜増やすパンケーキ
大河内基夫
皆無口茅花流しの磯番屋
金納義之
輸出用新茶の香りフェバライト
久下萬眞郎
湿りゐて梅雨の菓子舗の包み紙
河野伊葉
父の日やズボンの丈を縮めらる
中野陽典
露店市放り出される夏帽子
鎌田よりこ
茶筅振る野点の席や若楓
藤井英之助
夏桑や富岡製糸今に継ぐ
久下萬眞郎
バラ園に数へ切れずに身を沈め
吉川紀子
さつきから南座前は夕立なり
大槻一郎
集めては散らす人の輪薔薇館
河野伊葉
椎若葉犬連れの人多き道
上原赫
草笛のイマジン暫し変調す
大河内基夫
畦道に草笛を聞く童歌
藤井英之助
アーケードパン匂ひたち夏浅し
金納義之
イラスト:河野伊葉のイラストより
reproduction is prohibited無断転載禁止
2024年3月
土筆採り金網丸く破れをり
久下萬眞郎
連翹に山高帽子よぎりけり
大槻一郎
釣糸の微動だにせず春寒し
緒方 勝
一木の囀り抱へ大落暉
南後 勝
白梅や読めぬ寺額を通り過ぎ
大河内基夫
病人の寝間着姿の手に土筆
中野陽典
耕せし田の後そつとふり返り
栗原 章
水音と共に佇む春の鹿
河野伊葉
角帽を被りし写真春の夜
上原 赫
春寒の土間に潜める京町家
大河内基夫
雛まつり色どりあられ先に売れ
上原 赫
咲き継いで白モクレンに午後の風
吉川紀子
春寒し吉野の蕾首すくめ
稲田正弘
枝延ばす白梅の奥には秘仏
河野伊葉
母なれば娘と住みて雛の家
中野陽典
新しき絵馬揺らしけり春の風
金納義之
三月の浜まぶしかり抹茶ラテ
鎌田よりこ
根の硬き春蘭硬き土に咲く
久下萬眞郎
赤帽子黄帽子揺れて耕せり
大槻一郎
2024年1月
松過の尚松あるが如きかな
大槻一郎
うす雲を丸めて渡る鷹のあり
河野伊葉
初鶏や熱田の森に日の射して
緒方 勝
静けさやオリオン仰ぐ石舞台
大河内基夫
楪に流るる日ざし小鳥呼び
藤井英之助
寒造洩れ来る杜氏の祝ひ唄
南後 勝
餅箱と蒸籠干しけり日脚伸ぶ
久下萬眞郎
酒袋干す蔵壁に日脚伸ぶ
金納義之
楪や今年は一人頑張ろふ
岩見 浩
腕時計磨き人日暮れにけり
吉川紀子
日脚伸ぶ道順変へて散歩道
藤井英之助
水鳥や行基の池に遊び啼く
大河内基夫
楪のくれなゐ長く束ねられ
大槻一郎
三日はやどこ歩けども琴ひびく
鎌田よりこ
朱の椀に白づくしなる雑煮かな
金納義之
出不精の顔うずもるるえびす笹
河野伊葉
初鶏や湖族の村の辻地蔵
中野陽典
イラスト:河野伊葉のイラストより
reproduction is prohibited無断転載禁止
2023年12月
窓開けてゐる風花を入るるため
大槻一郎
朝市に買ふ大根の重さかな
久下萬眞郎
ながながと牡蠣殻吊す漁港かな
南後 勝
大根焚今年も参る了徳寺
岩見 浩
塔影のおよぶ水面や鴨すすむ
河野伊葉
小春日やドイツの朝の広場かな
上原 赫
植木鉢ひつくり返す小春かな
久下萬眞郎
湯沸器俄に潰れ十二月
中野陽典
ビル風に山茶花揺るる丸の内
大河内基夫
運び込む冬菜あをあを宮居かな
大槻一郎
風呂敷に感謝を包み十二月
稲田正弘
枯菊の色残しまま焼かれけり
南後 勝
日記帳何も書けずに十二月
藤井英之助
彫り深き詩歌の石碑枇杷の花
吉川記子
小春日や猫の背中を眺めをり
藤井英之助
立ち昇る枯菊焚きし煙かな
栗原 章
道東や柳葉魚ピザ焼くイタリアン
大河内基夫
大根煮る大きな鍋が良かりけり
中野陽典
イラスト:河野伊葉のイラストより
reproduction is prohibited 無断転載禁止
2023年10月
山下る竹筒の水澄みにけり
中野陽典
黄昏れて稲穂に残る日の匂ひ
南後勝
庭先に出迎へゐたる虫の声
上原 赫
アメリカンサイフォン落つる秋日和
大河内基夫
稲架組まれ竿は古びてをりにけり
久下萬眞郎
四五枚の晩稲の田圃しづかなり
大槻一郎
川縁を影踏み歩む月夜かな
栗原 章
神鼓鳴る社の奥の水澄める
金納義之
沈下橋朝の散歩や水澄めり
岩見 浩
母の衣は合はぬサイズや夜の秋
吉川紀子
秋深し木々の色付く垣根道
稲田正弘
名月やアクロポリスの石白き
大河内基夫
陽のひかり平らに受けてぶだう園
鎌田よりこ
松虫の哀れ漸うすがれけり
大槻一郎
虫の音に虫の居所頓着す
河野伊葉
夕暮の稲の穂波に立つ農夫
上原 赫
切り取りて葡萄の重さ手に移る
金納義之
日替りの虫の音を聞く湯舟かな
久下萬眞郎
イラスト:河野伊葉のイラストより
reproduction is prohibited 無断転載禁止
2023年8月
土用波の間に貌出す破船かな
大槻一郎
風蘭や風に揺らげば香も揺らぐ
大河内基夫
群青を切る一条の星流る
南後 勝
朝顔に日陰求めて猫休み
藤井英之助
立秋や快音ひびく甲子園
岩見浩
食卓を外に設ふ秋の朝
久下萬眞郎
けさ秋のいつもと違ふ鳥の声
吉川紀子
暮れ残る残暑の鳥居鳰の海
南後 勝
ひまわりの首の向きへと犬走る
河野伊葉
終戦忌見覚えのある古ラジオ
上原 赫
かぶりたる残暑の水のあたたかき
中野陽典
駅前のラテン音楽秋立ちぬ
中野陽典
滝音に人皆口をつぐみけり
大河内基夫
二度三度旅に逃げ出す残暑かな
久下萬眞郎
立秋や宿の部屋の名花筐
鎌田よりこ
右京にて柚菓子を買ふ残暑かな
大槻一郎
がらがらと社の鈴や秋立ちぬ
金納義之
ドイツ来てノンアル麦酒飲みにけり
上原 赫
星飛んで山荘の闇深まれり
金納義之
面相筆さらに細りて立秋の朝
河野伊葉
イラスト:河野伊葉のイラストより
reproduction is prohibited 無断転載禁止
2023年6月
つつがなく糸瓜の花のならびけり
大槻一郎
酒つくり地に落つ梅も選り分ける
岩見 浩
糸瓜咲く君には早き辞世の句
中野陽典
人声を透過してをり紫陽花よ
河野伊葉
厄払ふ鈴の音高し走り梅雨
南後 勝
青梅の貰ひしままに赤くなり
久下萬眞郎
御所過ぎて寺町通り新茶の香
大河内基夫
本箱の扉を開け放つ梅雨晴間
大槻一郎
梅雨晴間物干し竿はたはみけり
村田博史
三段のランチボックスや梅雨晴間
鎌田よりこ
黒づみし水車廻るや花菖蒲
久下萬眞郎
下町の寄席の畳の梅雨湿り
金納義之
紫陽花の小径を急ぐ赤き傘
大河内基夫
夏浅し客満席に沖縄便
藤井英之助
海鼠壁泰山木の花拾ふ
大河内基夫
古民家にコーヒー香り青葉かな
金納義之
近江路の咢紫陽花の白さかな
緒方 勝
ひと山の鎮座の実梅ほの赤き
吉川紀子
靴墨のチューブの堅し梅雨晴間
河野伊葉
鮎食べに大和五条に立ち寄りぬ
久下萬眞郎
イラスト:河野伊葉のイラストより
reproduction is prohibited 無断転載禁止
2023年5月
今朝咲くを入れて五つ目山法師
大槻一郎
葉桜や家に風湧く音のあり
大槻一郎
琴の音の日本庭園夏燕
中野陽典
五月雨やむらさきい色の闇深し
河野伊葉
山頂より見下ろしをりぬ山法師
岩見浩
薪能一笛誘ふ小宇宙
大河内基夫
浜昼顔縄の張らるる道導べ
久下萬眞郎
麦の秋風がざわわと歌ふなり
上原赫
一八や玄米パンのはじけ音
河野伊葉
沖暮れて浜昼顔の花明かり
南後勝
山里に線路の光る若葉寒
吉川紀子
西風や奈良の都に黄砂降る
大河内基夫
風ごとに光を弾く柿若葉
南後勝
かわせみの一直線に漁どれる
金納義之
バス通り恩師の家の花水木
鎌田よりこ
里山に生木積まれて五月雨
久下萬眞郎
山法師茶室に高く咲いてをり
藤井英之助
筍や長岡京に山がらす
中野陽典
reproduction is prohibited 無断転載禁止
2023年3月
水温むなにやら動く池の底
久下萬眞郎
推論と都をどりと石だたみ
河野伊葉
閉店の本屋の廂燕の巣
南後勝
春めくや瀬戸に進まぬ貨物船
大河内基夫
海苔の香に母の思ひ出ちらし寿司
上原赫
カステイラどこを切ろうと春めけり
大槻一郎
白雲のちぎれるごとく涅槃西風
中野陽典
梅林や瑞枝一斉天を指す
金納義之
岩の上甲羅干す亀水温む
藤井英之助
遍路道野菜畑のへこみかな
鎌田よりこ
よき隔たりに白梅と紅梅
大槻一郎
冴返る鉄扉閉ざしし見附門
大河内基夫
小流れに並ぶ釣竿水温む
南後勝
皿の銘あらためて知る西行忌
河野伊葉
海苔舟のふうはり浮いて瀬戸の海
吉川紀子
利休忌や京を闊歩す貸衣装
藤井英之助
冴返る高野宿坊朝の月
久下萬眞郎
その中に畳針ある針供養
大槻一郎
2023年1月
箸の先小豆の当たる冬至粥
大槻一郎
古壁の湊の酒停蔦枯るる
河野伊葉
聖樹下に絵本広げてクリスマス
南後勝
朝まだき京は静かに霜の中
大河内基夫
陽典さん偲びし日々や年惜しむ
金納義之
焼き芋の匂ひ声より先に着き
上原赫
夜は更に比叡の尖り年惜しむ
大槻一郎
初雪の丹後の空を拡げけり
久下萬眞郎
冬至粥演歌聴かざる君と食ふ
大河内基夫
十二支の灯篭の立つ初詣
吉川紀子
初雪や冷え性の母眠る墓地
藤井英之助
天守より光一筋初明かり
鎌田よりこ
鎮守社の神の瞬き実万両
河野伊葉
初雪に老松の彩深めけり
南後勝
reproduction is prohibited 無断転載禁止
2022年11月
見返るも行くさきざきも豊の秋
大槻一郎
右に波音左笛聞く秋祭り
大槻一郎
粒揃ふ隣の柚子を戴けり
中野陽典
錦秋に冱ゆる梵鐘勝尾寺
藤井英之助
暮れてゆく峡は地の底冬隣
河野伊葉
火恋し柿の葉寿司を食ひし夜は
上原赫
秋寂びや一音欠けしオルゴール
大河内基夫
早稲おくて棚田色づく豊の秋
金納義之
月代の山辺に灯る家二軒
南後勝
金柑や三軒続く竹矢来
大河内基夫
珈琲のカップ暖む冬隣
久下萬眞郎
飛び石のおほかた埋もれ楓大樹
河野伊葉
古書展に人立ち寄りて秋深し
緒方勝
稲刈りや次々と消ゆ金の波
田中實
小菊鉢増やして路地の日差しかな
吉川紀子
女子校の旧校庭に木の実落つ
鎌田よりこ
2022年9月
西陣の瓦隈なき月夜かな
大槻一郎
この宿(しゅく)の水場に浮かぶ秋茄子
大槻一郎
燭の火の長くなりたる秋の堂
河野伊葉
風もなく物音もなくただ良夜
中野陽典
大学の競ふ明日香の案山子展
中野陽典
竹垣のゆるびて響く鉦叩
南後 勝
客来れば鈴虫鳴ける蕎麦屋かな
大河内基夫
ひぐらしや比叡の奥の阿弥陀堂
金納義之
蜩に囲まれ妻籠暮れにけり
久下萬眞郎
浮き橋の細さきはだつ秋夕焼け
河野伊葉
草取ればこほろぎ一天幅跳びに
河野伊葉
生け花の静かに揺れて秋の風
藤井英之助
漆喰と瓦の映ゆる秋日和
緒方 勝
道場に高き声する秋気かな
大河内基夫
蜩や旧寺の太き堂柱
吉川紀子
日暮時稲干す農夫の影一つ
栗原 章
月光り幾多の人を照らすかな
宮下 博
竹垣を編みかえてあり萩の寺
鎌田よりこ
庭先に出迎へゐたる虫の声
上原 赫
門口で立ち止まりたる虫時雨
久下萬眞郎
reproduction is prohibited 無断転載禁止
プロフィール
河野 伊葉 (こうの いよ)
俳誌の代表の先生が高齢でご逝去され
それを機に結社を退会、現在はフリーで
俳句を楽しんでおります。